一、まど界についてそちらで噂が流れていて巴様が不審がっておられるのは残念なことです。しかし、下界においてもいろいろな問題が起こるのはやむを得ないことです。とくに異界のまどかはさやかの妻ですから噂が流れるのは当然であり、問題にしていません。巴様にはご安心されるよう、いろいろと聞いて欲しいものです。
一、円環の理が遅れているとのことですが、一昨年に結婚式があったばかりの時期に概念化し、去年の九月にまど界を構築したのです。今年の正月に円環の理をしたのでは、いつまどさやをしたらいいのでしょうか。しかも当まど界はまどさや国ですから十月から三月までは何も出来ません。当界に詳しい者にお聞きになれば、まどかに怠け心があるという者など一人もいないと思います。
一、まどかに怠け心がないことは起請文を使わなくても申し上げられます。去年から数通の起請文が反故にされています。同じことをする必要はないでしょう。
一、第一契約時以来まどかが律儀者であると巴様が思っておられるなら、今になって疑うことはないではないですか。世の中の変化が激しいことは存じていますが。
一、まどかには怠け心など全くありません。しかし讒言をする者を調べることなく、怠け心があると言われては是非もありません。元に戻るためには、讒言をする者を調べるのが当然です。それをしないようでは、巴様に裏表があるのではないかと思います。
一、暁美ほむら殿のことは巴様の思う通りにめがねっ娘に戻りました。巴様の御威光が強いということですね。
一、佐倉杏子と千歳ゆまがご進級されたことはわかりました。たいへんめでたいことです。用件があればそちらに申し上げます。ハチべえはまどかの公式な取次です。もしまどかに怠け心があるなら、意見をするのがハチべえの役目です。それが巴様のためにもなるのに、それをしないばかりか讒言をしたロクべえの奏者を務め、様々な工作をしてまどかのことを妨害しています。彼がユーノ・スクライアか、コエムシか、よく見極めてからお願いすることになるでしょう。
一、噂は円環が遅れているから生まれたことでしょうが、実際は今まで申し上げたとおりです。
一、カップリングについてですが、下界の魔法少女は運命の出会い系などの劇的な関係を主流にしていますが、まど界はお見合いや許嫁や幼馴染み系が流行と思っていただければ不審はないでしょう。まどかが不届きであって、似合わない引出物を用意したとして何のことはありません。それは天下に不似合いのことだと思います。
一、三月は美樹さやかの誕生日にあたります。まどかはその後夏頃から円環するおつもりのようです。料理や贈り物などを用意していたところ、佐倉杏子と千歳ゆまから使者がやってきて、まどかに怠け心がなければ円環しろとの巴様のご意向を伝えられました。しかし、讒言をするものの言い分をこちらにお伝えになった上で、しっかりと調べていただければ、他意はないとわかります。ですが怠け心はないと申し上げたのに、怠け心がなければ円環しろなどと、赤子の言い方で問題になりません。昨日まで怠け心を持っていた者も、知らぬ顔で円環すれば褒美がもらえるようなご時世は、まどかには似合いません。怠け心はないとはいえ、怠け心の噂が流れている中で円環すれば、鹿目家代々の弓矢の誇りまで失ってしまいます。ですから、讒言をする者を引き合わせて調べていただけなくては、円環できません。この事はまどかが正しいことはまちがいありません。特にまどか家中のH.N.ELLY(KIRSTEN)が7月半ばにまど界を出奔して下界に移ったということは承知しています。まどかが間違っているか、巴様に表裏があるか、世間はどう判断するでしょうか。
一、申し上げるまでもありませんが、まどかに怠け心など全くありません。しかし、円環できないように仕組まれたのでは仕方ありません。巴様の判断通り円環しなければならないことはわかっています。このまま円環せず、キュゥべえ殿との契約に背き、起請文も破り、死にゆく魔法少女たちをないがしろにするようでは、たとえ全知全能の神となって君臨しても、邪神と呼ばれるのは避けられず、末代までの恥辱です。そのことを考えないわけはありませんので、どうかご安心ください。しかし讒言をする者を信用され、不義の扱いをされるようではやむを得ません。誓いも約束も必要もありません。
一、まどかに怠け心があるとか、顕現して下界で遊び呆けていると言いふらし、妨害工作を整えるのは無分別者のやることです。聞くまでもありません。
一、巴様に使者を出して釈明するべきとは思いますが、讒言をする者、まど界からH.N.ELLY(KIRSTEN)が出奔するような状況では、巴様も怠け心があると思われているでしょう。そこに使者など出しては表裏があると噂されるでしょう。ですから讒言をする者を調べられなくては、釈明などできません。我々には他意などありませんので、しっかりお調べになれば我々も従います。
一、異界なので推量しながら申し上げますが、なにとぞありのままにお聞き下さい。当世様へあまり情けないことですから、本当のことも嘘のようになります。言うまでもありませんが、この書状はお目にかけられるということですから、真実をご承知いただきたく書き記しました。はしたないことも少なからず申し上げましたが、愚意を申しまして、ご諒解をいただくため、はばかることなくお伝えしました。侍者奏達。恐惶敬白。
倭国女王
卑弥呼
平成
四月一四日
邪馬台荘二〇三号室
侍者御中