パパのいないいないばあは怖い。
それはもうとんでもなく怖い。
家に遊びに来た小梅ちゃんが花丸笑顔ではしゃぎ始めるくらい怖いのだ。
そんな調子だから当然我が子は全然泣きやまない。
パパは我が子をあやすのがヘタだった。致命的なレベルで。
しかしその原因の大部分が顔の造形にあるのだから一概にパパだけの責任とも言えない。
パパのパパの顔がいかついのが悪いのだ。たぶん。すみませんお義父さん他意はないです。
今日も泣いてぐずる娘をパパがあやそうとして、さらに火が噴いたように泣き出したのを、ママがとりあげて泣きやませ、ようやく寝かしつけたところだった。
赤子は泣く場所も時間もえらばない。
仕事柄深夜に帰宅し、早朝に出勤するパパだけれど、娘の世話をママまかせにせず、夜泣きの時は一緒に起きて、嫌な顔ひとつせずに、まじめに、たぶんほんとうにまじめに、心から娘をおもって、とてつもなく怖ろしい顔で、あやそうとする。そして、いや、だから、失敗する。
困ったように首を撫でるいつものパパの癖。おとなしく娘をママにあずけてしょんぼりする姿が、なんだかかわいい。顔はいかついけど。
ママのほうはといえば、現役時代だてに「笑顔の女神」と呼ばれてはいない。そのやさしい笑顔(世の男性諸君からするとひじょうにセクスィな)で赤子をあやす。その姿はまるで聖母マリアのようだと熊本人なら言ったかもしれないし、ロシアンハーフはクラスィーヴィ……と判を押したように連呼したかもしれない。
ほらね、すやすやと、ちいさな、あいらしい、寝息をたてはじめた娘です。
くあとあくびをして、自分たちの布団に戻る夫婦。時計を見ると4時を過ぎた頃。最初の夜泣きから3時間近く格闘していたことになる。3時間ずっと起きていたわけではなく、娘の寝泣きで。小刻みに目を覚ましていた。ここから何事も無ければ、5時起床だからあと2時間くらいは眠れる。
ストレスはたしかにある。とにかく疲れる。ただこのストレスはだいぶん軽減されているとママは思うのだ。先輩ママドルの話を聞くと子育てに無関心な旦那は、夜泣きのストレスを妻にぶつけてごにょごにょごにょだからって自分であやしたりはぼそぼそぼそぼそ……。
良い人と結婚したなぁと思う。本当に。あやすのが絶望的にヘタだけれど。子育てを手伝ってくれるのはありがたい。仕事でたいへんなのはわかるし、そこにさらに負担をかけるのをもうしわけなくもおもうけど、アイドル業とラクロスで体を鍛えていなければもうとっくに限界だったかもしれない。意外と心が繊細なのだ、この元セクシー系アイドル(というとユニットのパートナーがぷんすか怒る)のママは。
体をごろりとうごかしてパパのほうを見ると疲れ果てたのかもう眠ってしまっていた。
寝顔はかわいい。かもしれない。いや、いかついことには変わりないのだけれど。
「ありがとう」
なんて、寝不足の頭で、なんかふわふわした気持ちで、パパのおでこにキスをした。
(明日のお弁当なに作ろうっかな?)
了