「うう、寒い」
事務所を出るなり川島は身震いした。ビル内は暖房が効いているのですっかり忘れていたが今日はべらぼうに冷えるんだった。今日というか昨日も今日もそして明日もずっと寒いのだ。
コートを羽織っても寒いものはやっぱり寒い。こうなるとやることなんてひとつしかないわけで行きつけの飲み屋で一杯飲んで身も心も暖まろうかと足を踏み出した時だった。
ばさっと頭からジャケットがかぶさってきた。にわかに視界が塞がる。危ないじゃないのちょっと! 全く誰かしらこんないたずらをするのは。さては楓ちゃんか、それとも楓ちゃんか、あるいは楓ちゃん? でもこんなジャケット彼女もってたかしら?
「До завтра!」
あっさり正体を明かしてくれた。ジャケットをどかすと、にっこりと笑顔の、白い女の子が。
「それあげます! 朝よりあったかいのでいらない、です!」
薄着で颯爽と走り去っていった。
「スパシー……バ、だったかな」
はい、また明日。風邪引かないでね。もう見えない影にむかって言う。コートの上にジャケットを羽織るとさっきよりちょっと、あったかい。
――今夜はお酒はいらないかしら?
了