テーブルの上にバスケット。
見慣れたバスケット。
かな子がいつも持って来る、手作りのお菓子が入ったバスケットだ。
中身が全部ポッキーの箱に入れ替えられている。
うずたかく綺麗に積まれたポッキーの箱20。とても数えやすかった。
かな子たちがお花を摘みに行って、他のメンバーもなんやかんやで席を外してそれから数分程度この部屋は無人になった。
その数分のあいだに事件は起こったのだ。
誰かがかな子の手作りお菓子を盗み、市販のポッキーの山に換えてしまった。
「誰がこんな酷いことをっ」
未央が憤りにテーブルをドンとたたくとポッキーの山はガレキと崩れた。
かな子はめそめそと泣いている。かわいそうに。彼女の傷ついた心を思うと未央は怒りと哀しみが湧き起こって仕方がなかった。いっしょけんめい作ったお菓子を盗まれたかわいそうなかな子。それを食べられない私たち。なんてかわいそうな灰かぶりたち。
「とりあえず、食べようよ。ないものはないんだし」
李衣菜はポッキーの箱をひとつ手に取って開封すると、なんの遠慮もなしに1本くちに加えた。未央は慌てて李衣菜の手を掴んだ。
「こらこら、市販品とはいえ何が入ってるのかわかんないのに、食べちゃ駄目だって」
「なにってポッキーしか入ってないよ?」
「だからナニがさ」
「なに?」
うん、なんだろう。なにって。小学生もいるのに、配慮が足りなかった。よし、やめようこの話。
20箱のポッキーの群はシンデレラ達のお腹におさまることはなく、李衣菜がくわえた1本も、全部残らず、プロデューサーに渡され、捨てられた犬のように秘密裏に処分された。
だが、事件は解決したようでしていない。
いったい誰が、こんなことを。
誰がかな子のお菓子を盗み、我々にポッキーを食べさせようとしたのか。
近くのコンビニで改めて買ってきたポッキーをキセルのように加え、でもしない煙をふかしながら、本田未央はこの晴れることのない濃霧のような事件に足を踏み入れたのだった。
それがあらたなる惨劇の幕開けとなることを、この時、シンデレラプロジェクトの誰も知らなかった。
了