うめぼしとみかんと高垣楓

 美優さんがうめぼしを食べています。
 わたしはそれをみていると、むしょうにいとおしいきもちになります。
 美優さんははちみつ漬けの甘いうめぼししか食べたことがないらしくて、母親仕込みのわたしの自家製うめぼしはそうとうすっぱいみたいでした。
 もうほんとうにすっぱそうな顔をして、くちびるを真一文字にしたりすぼめたりともごもごさせて、それでも全部食べきろうとしてがんばっています。わたしの家の味になれようとがんばってくれるのが、とてもうれしいことで、それからたのしいのです。美優さんはたいへんでしょうから、ちょっともうしわけないのですが。
 本場のうめぼしはこんな味なんですね、と、初めてくちにしたとき、目をつよくつむって、ゆっくりと咀嚼して、食べきって、それから深呼吸したあと、美優さんはそう言っていました。おいしいです、とも言ってくれました。これもわたしのたいせつな思い出のひとつです。
 それから何度となく美優さんはわたしの自宅にあがり、いっしょに食事をして、おなじうめぼしを食べました。
 苦手なのがわかっているのだから、いいかげん美優さん用にはちみつ漬けのうめぼしを冷蔵庫に常置すべきなのでしょうが、わたしにもやはり県民としての誇りがあるのでしょうか、どうにも抵抗があります。あの甘いうめぼし。ちょっと食べたことがあるのですが、こっちのほうはわたしがだめでした。美優さんはおいしそうにたいらげていましたが。
 いえ、そうではありませんね。いっしょけんめいに食べようとする表情が、しぐさが、あんまりにもかわいらしいから、それがみたくって買わないだけです。
 それからみかんです。和歌山のみかんの特徴としてちょっとつよめの酸味があるのですが、これも甘いみかんしか食べたことのない美優さんにはなかなか慣れない味らしくて、わたしの実家からおくられてくるダンボール箱いっぱいのみかんを、ふたりで食べているときには、やはりあのかわいらしい、すっぱそうなお顔をします。でも、がんばって慣れてくれようとしています。
 美優さん、わたしの地元の味を好きになろうとして、すごくすごくがんばってくれているんです。
 うめぼしもみかんも、忘れられないふるさとの味です。
 それをいっしょけんめいに食べる美優さんのお顔、これがまたかわいらしいのです。
 ながながと話しすぎましたでしょうか。すみません、思い出すたびにたのしくなってしまって、つい。
 しあせそう……ですか? わたしが?
 そうですね、とてもしあわせです。
 そうそう、今度岩手のほうにふたりで旅行にいって、郷土料理を食べる計画を立てているんです。  たのしみですね。

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