ポッキーのチョコを全て舐めとったところで、プリッツになるわけではないのだ。
それはあくまでプリッツ的なものでしかない。
そうと知りながら、さやかはポッキーを食べる時、しばしば先にチョコを舐めとりあるいは歯で削りとってから、あらわになったクッキー部分を「プリッツができた」と言っては、満足げな顔で口に入れた。
――きのこの山でも同じことしてたっけ。
まどかが目撃したのは、ポッキーよりこちらが早かったかもしれない。
またトッポの中のチョコを残らず抜き出そうと無駄に足掻いていた彼女の姿を、まどかは今でもあざやかに思い出せる。
何かに立ち向かっている時のさやかは勇ましく魅力的であるはずなのには、あれはあまりかっこよくなかった。諦めの悪いさやかにしてはたった一度の挑戦で投げてしまったが、それで正解だろう。
チョコのなくなったポッキーをさやかはプリッツだと言う。まどかはそうは思わない。
ぬいぐるみまみれの部屋で、そのうちの一つと戯れていたさやかは、用足しから戻ってきたまどかにいつもの爽やかな笑みを向けたかと思うと、
「まどか、あげる」
「これ、なに」
さやかが差し出すそれの正体はわかりきっているのに、まどかは思わず訊ねた。
「なにって、プリッツに決まってるじゃない。ほら、あーん」
と言って、さやかは彼女の言うところのプリッツをまどかの口の前に突き出してきた。
こういうことをされるのは初めてだ。いや「あーん」などと言ってくるのはよくあることだが、さすがにくまなく唾のついたにせポッキーを与えられたことはなかった。
間接キスを気にする関係ではない。女の子同士の友達なのだから。しかし、かといって自分の唾液まみれのそれを差し出すのはどうなんだと思う。
戸惑うまどかをよそに、さやかはまどかの口元のポッキーをふるふるとゆすった。
「あれ、いらないの?」
と、彼女はとても不思議そうに訊いてくる。別にいたずらのつもりでやっているのではないらしいと、付き合いの長いまどかはその表情を見て悟った。
その分、新しい疑問も生まれる。
どうして、まどかの戸惑いを、ポッキーを受け取らない今の状態を、彼女は不思議に思えるのか。それのほうがまどかには不思議だった。確かに食べかけの物を与えらて断わったことは一度もなかったけれど!
――もしかして……。
と、まどかは想像してみる。
さやかは同じことをされても気にしないのだろうか。少しも遠慮せずに差し出されたポッキーを食べるのだろうか。
箱の中にかろうじて一本残っているのに気づいた。
同じことをまどかがさやかにやれば、さやかはそれを食べてくれるのだろうか。チョコの代わりにまどかの唾液がコーティングされたそれを。
にわかに熱っぽくなった頭で、まどかはそんなことを考えた。
了